放射線によるがん死は「推定」の10倍だった!
8月10日夜、私の呼びかけで被ばく問題学習会を開きました。
定員25名の部屋に32名が溢れる盛況で、私は一つの椅子に二人掛けでした。
学習会全体の様子は、近く開設される予定のホームページをご覧いただきたいのですが、ここでは私が問題提起した「ICRPは外部被曝リスクを1/10に過小評価している」を紹介します。
<PDFはこちらから> 「ICRP講演録詳細最後.pdf」をダウンロードしてください。
ICRP(国際放射線防護委員会)は1990年、放射線の年間被曝限度を一般公衆では1ミリシーベルト、職業人では原則20ミリシーベルトにするよう勧告しました。日本政府もICRP勧告に基づいて、同じ線量限度を採用しています。
この勧告は、主に被曝によるがん死亡の推定値に基づいています。
100ミリシーベルトの被曝によるがん死亡率は0.55%とされています(ICRP 2007年勧告)。
ところが最近、放射線被曝によるがん死亡率はICRP推定の約10倍に達することを示唆する報告が相次いでいます。
累積10ミリシーベルトで発がん率3%増加
患者さんの平均年齢は63.2歳。3分の2以上が男性です。
1回の検査で7~15.6ミリシーベルトなどの医療被曝を受けています。
医療被曝を受けて1年後以降に、5年間の観察期間中に、1万2千例を超えるがんが発生しました。
その発生率を、急性心筋梗塞になったけれど医療被曝を伴う検査・診療を受けなかった23%の患者さんの発がん率を1として、10ミリシーベルト未満のグループ、20ミリシーベルト未満のグループ等々と比較したのが下のグラフです。
線量が10ミリシーベルト増える毎に、相対発がん率(被曝量ゼロ患者さんの発がん率との比率)が約0.03(=3%)ずつ増えています。
上の表から分かるように、発がんでICRPの8.7倍、がん死亡では11.5倍です。
財団法人・放射線影響協会は文科省の委託を受け、男性原発労働者(核燃料加工工場、もんじゅなどでの被曝労働者を含む)の放射線被曝による健康影響を調査しています(「原子力発電施設等放射線業務従事者等に係る疫学的調査」)。
2010年3月に発表された第Ⅳ期調査結果に
よると、調査した203,904人の原発労働者のうち5,711人が1990年4月1日から2009年3月31日までの18年間にがんで亡くなっています。
同じ年齢構成の日本国民の場合は、同じ期間にがんで死亡するのは5,489人と計算されます。
原発労働者のがん死亡率は国民平均の1.04倍でした。
平均累積被曝線量が13.3ミリシーベルトでがん死亡率が4%増えるということです。
この違いは単なる偶然ではなく、確かに違いがあることが確認されました。
調査した放射線影響協会は、喫煙などの影響でがん死が増えたのかも知れないとして いますが、私が調査した結果、がん死亡4%増のうち、酒・たばこの影響はわずか0.5%に過ぎないことが明らかになりました(詳細はこちら)。
ICRPのがん死リスク計算の基礎は、放射線影響研究所(放影研)が報告してきた広島・長崎の被爆者のデータです。
爆心地から2.5キロ以遠で初期放射線被爆は5ミリシーベルト以下だった人でも脱毛や下痢が起きていました。
これは、放影研の前身・ABCC(原爆傷害調査委員会)が行った脱毛発症率の調査などで明らかになっています。
この二つを組み合わせると、上のグラフの [1] のように、脱毛率からその地点の全被爆線量を求めることができます。
放射性降下物の微粒子を呼吸や飲食で体内に摂取すると、「腸壁細胞の表面や毛細血管内の放射性微粒子から放出された透過力の弱いベータ線やアルファ線が、密度の高い電離作用によって薄い腸壁細胞に障害を与えて下痢を発症させます」(沢田昭二)。
毛根細胞についても同様でしょう。
以上のように、爆心地から2.5キロ以遠で被爆した人は、1シーベルト(=1,000ミリシーベルト)前後の被爆に相当する内部被爆を受けていたことが明らかになりました。
広島・長崎の場合は一瞬のうちに高線量を浴びるが、原発の場合は長期間に低線量を浴びるので、危険性は半分だとしていたからです。
http://www.rea.or.jp/ire/pdf/report3cf.pdf
小笹晃太郎 Asian Pacific Journal of Cancer Prevention Vol 8,2007:JACC Supplement 89-96
日本の原発労働者のがん死を調査した放射線影響協会は、喫煙などの影響でがん死が増えたのかも知れないとしています。
本当にそうでしょうか?
1.喫煙歴の影響は?
原発労働者の喫煙、飲酒状況については、「第2次交絡因子調査」が発表されています。
累積被曝線量別に喫煙歴を比べてみると、例えば上の図の「現在喫煙者」の場合、左側の10ミリシーベルト未満の人に比べて、右側の100ミリシーベルト超の人の方が喫煙率が高くなっています。
その結果をまとめた論文によると、現在たばこを吸っている人は吸わない人の約2倍、がん死率が高いことなどが分かります。
2.喫煙量の影響は?
上のグラフにある総喫煙量(パック・イヤー)は、例えば一日平均1箱で20年間吸っていれば、1箱×20年=20パック・イヤーになります。
総喫煙量が増えるほど、がん死亡率が高くなります。
原発労働者の場合、累積被曝線量の多い人は総喫煙量も多いようですが、いずれも35.6~37.3の間で、差はわずかです。
日本人の大規模調査を統合して解析した井上らの研究によると、上のグラフのように、少量の飲酒はがん死亡率を減少させますが、飲み過ぎるとがん死亡率が増加します。
放影協の調査によると、原発労働者は累積被曝線量が多いほど飲酒量が多い傾向が見られますがその違いはわずかで、10ミリシーベルト未満群も100ミリ シーベルト超群も、一日当たりのアルコール摂取量は23-46グラム/日の範囲内に収まっています。
累積被曝線量の多い人ほど飲酒量が多いためにがん死が 増える、ということはないと思われます。
放影協の調査によると、原発労働者は累積被曝線量が多いほど飲酒量が多い傾向が見られますがその違いはわずかで、10ミリシーベルト未満群も100ミリ シーベルト超群も、一日当たりのアルコール摂取量は23-46グラム/日の範囲内に収まっています。
累積被曝線量の多い人ほど飲酒量が多いためにがん死が増える、ということはないと思われます。
たばこ、お酒の影響を検証した結果、その影響はわずか0.5%で、残りの3.5%は放射線の影響でした。
放射線影響協会はその事実をきちんと明らかにし、労働者の被曝軽減に向け、警鐘を鳴らすべきです。
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