原発の新規建設まで言い出した安倍政権
安倍政権は「原発ゼロの見直し」、「新規建設禁止の見直し」、「核燃サイクルの継続」などと、原発推進方針を次々に打ち出しています。

2013年1月4日 TBSテレビ「みのもんたの朝ズバッ!」より |
1月4日には安倍首相が「新しい原発の安全性は格段に向上しているとの認識を示した上で、東日本大震災でも深刻な事故に至らなかった福島第2原発や女川原発について検証を重ね、国民の理解を得ながら原発の新規建設を目指す方針を明確にしました」と報道されています。
これに呼応するかのように、電気料金値上げの動きが相次いでいます。
昨年11月の関西電力(家庭用11.88%)、九州電力(同8.51%)に続いて、北海道・東北・四国電力が1月中にも、電気料金値上げ申請する方向で調整中と報道されています(2013年1月2日 NHK「ニュース7」)。
いずれも原発停止を理由にしています。
火力発電は原発よりコストが低いのに、火力発電が増えるとなぜ値上げを申請するのでしょうか。
原発は火力発電よりコスト高
発電単価を実績値で比較すると、上の図の黄緑の部分で、一番安いのは水力、次が原子力、一番高いのが火力となります。
これは電力会社にとっての「コスト」です。
原発には高額の税金を注ぎ込んでいる
しかしユーザーである私たちにとっての「コスト」は、図の橙色部分(税金投入)を加えたものです。
原発を地元に受け入れさせたり、高速増殖炉などの技術開発のために、原発には多額の税金が注ぎ込まれてきました。
ダブルクリックすると大きな画像が見られます。
135万キロワットの原発の場合、40年間の「寿命」までに約1,384億円もの税金が投入されます。
その税金は私たちが払ったものです。
税金も加えて比較すると、原子力が一番高いのです。
再処理等の費用は最低15兆円以上に
これまでに書いた「発電単価」と「税金投入」は大島堅一・立命館大学教授が各電力会社の有価証券報告書から計算した実績値です(「原発のコスト」岩波新書)。
他方、この先の「再処理等費用」、「追加的安全対策費」、「事故リスクへの対応費用」はいずれも政府の「コスト等検証委員会」が2011年12月19日付けで発表した報告書による「試算値」です。
再処理等の費用はすでに電気料金に上乗せされて毎月徴収されています。
使用済み核燃料処理処分費用見積もり
積立金の名称 |
目的 |
見積額 |
2010年度末 |
再処理等積立金 |
六ヶ所再処理工場で32,000本の使用済み核燃料を再処理する |
12兆2,516億円 |
最終処分積立金 |
ガラス固化体4万本、TRU(超ウラン)廃棄物*を地層処分する |
2兆7,769億円 |
合計 |
15兆285億円 |
* 再処理で発生する、長寿命核種を含む放射性廃棄物
2011年11月10日 原子力委員会原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会資料より |
六ヶ所村の再処理工場で使用済み核燃料32,000本を再処理し、できるガラス固化体とTRU廃棄物を地下深くに埋め立てる(地層処分)だけで、15兆円あまりの費用がかかると試算されています。
追加的安全経費の見積もりはたったの194億円
福島原発事故により、全電源喪失をまったく想定していなかったことが明らかになり、政府は4回にわたって追加的安全対策を講じるよう指示しました。
その費用は原発1機当たり194億円と試算されています。
この試算で想定されていない「テロ対策」なども考えれば、もっと高額になるでしょう。
事故リスクへの対応費用は50兆円?
2011年12月の「コスト等検証委員会」報告書では、福島第一原発事故による賠償・除染費用、廃炉費用を最低5.8兆円と試算しています。
東電が2012年11月7日に発表した「再生への経営方針」では、賠償・除染費用だけで10兆円に達することを示唆し、廃炉費用1兆円を用意しているが、さらに巨額を要する可能性があるとしています。
このため、最初に掲げたコストのグラフでは、事故リスクへの対応費用を10兆円として表示しています。
この費用が1兆円増加する毎に、原発のコストは0.1円/キロワット時ずつ上がります。
日本経済研究所は上の図のように、森林除染を含めると事故費用リスクは50兆円に及ぶと試算しています。
これは廃炉費用がわずか1.2兆円、賠償費用が7兆円と仮定しての計算です。
これが事実なら、原発のコストは約16円/キロワット時となります。
火力の方が安いのに、なんで値上げ?
以上を踏まえて、冒頭の問題に戻ってみましょう。
火力発電の方が原発よりコストが低いのに、原発を停止している関電や九電が値上げ申請しているのは、なぜ?
電気料金に含まれているのは基本的には最初の図の緑色部分、発電コストです。
税金から支出されている費用や再処理等の費用、事故リスクへの費用など、発電に必要な費用全体を見れば、原発の方がずっと高いのです。
「燃料代」が上がったから値上げ、というのが電力会社の理屈です。
しかし、いまや使えなくなった核燃料をしこたま仕入れたのは電力会社の経営ミスです。
そのツケをユーザーに負わせるのは筋違いでしょう。
コストを気にしなくていい総括原価方式
最近の火力発電は燃料費の約6割がLNG(液化天然ガス)です。
このLNGの価格が急騰しています。
日本の電力会社はカタール、マレーシアなどの天然ガスを液化させ、LNG(液化天然ガス)として輸入しています。
その価格は2008年頃までは米国の天然ガスの価格と大差ありませんでした。
しかしLNGの価格は原油価格と連動しているため、2010年以降、急騰しています。
他方、米国ではシェールガスが大量・安価に採掘できるようになり、天然ガスの価格は下落しています。
その結果、上の図に見られるように、2012年には、日本のLNG価格は米国の天然ガスの約6倍にもなっています。
ただし、天然ガスを輸入するには液化・輸送・気化の過程が必要なので、「100万Btu当たり2ドルで輸入しても10ドルになる」そうですが、それにしても6~7ドル高く輸入していることになります。
なぜ、こんなに高く輸入しているのでしょうか。
「総括原価方式」と言われる電気料金の決め方が、その一因です。
「総括原価方式」では、燃料代などのコストに一定の「事業報酬」を上乗せして料金が決められます。
コストが上がれば「自動的に」料金も上がります。
地域独占体制の下、料金が上がっても支障なく売れるのです。
ちなみに、「事業報酬」は上の図のように、事業資産(レートベース)の3%と決められています。
事業資産(レートベース)にはLNGなど火力発電の燃料費は入りませんが、発電所や使用前・使用済の核燃料は参入されます。
100万キロワット級だと1機数千億円と言われる原発は毎年100億円程度の事業報酬を生み出すことになります。
発電で放射能が1億倍に増強された使用済み核燃料も、電力会社にとっては、事業報酬を生む事業資産なのです。
もっとかかる放射性廃棄物費用
一番最初のコスト比較グラフで青色に表示した「再処理等費用(計15兆円強)」は、実は、政府が進めている「核燃料サイクル」費用のほんの一部に過ぎません。
濃縮ウランを使って原発で発電し(軽水炉燃料サイクル)、使用済み核燃料を再処理して燃え残りのウランとプルトニウムを回収し、MOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料に加工、原発の燃料とする(プルサーマル発電)。
さらにMOX燃料を高速増殖炉で燃やして核燃料を増やす「高速増殖炉サイクル」。
これら全体が「核燃料サイクル」です。
やっかいなのは、「時間差」です。
この「核燃料サイクル」は使用済み核燃料の再処理から始まりますが、六ヶ所村の再処理工場は故障続きで、いまだに本格稼働できていません。
今後稼働できたとしても、再処理するのは、何十年も前に発電したときの核燃料なのです。
それを再処理する費用を私たちや、あとの世代が負担しなければならない。
ツケ回しです。
今発電している核燃料の後始末費用くらい、今のうちに積み立てておかなければなりません。
ところが実際には、今後必要となる膨大な費用の大部分は、下の図の赤字や黒字の「吹き出し」に見られるように、費用の積み立てさえされていないのです。
MOX燃料加工工場は六ヶ所村で建設が始まってますが、1兆円以上と見積もられている操業、廃棄物輸送・処分、廃止措置の費用はまったく手当てされていません。
高速増殖炉・もんじゅは1995年のナトリウム洩れ事故以来動いていません。
さらに、もんじゅの西約500メートルに活断層「白木(しらき)―丹生(にゅう)断層」が通り、敷地内に9本の断層が通っているので、現在、活断層の再調査が行われています。
もんじゅの冷却剤に使われている金属ナトリウムは、水と反応すると爆発する極めて危険な物質です。
すでに1兆円を超えるお金が注ぎ込まれているにもかかわらず、高速増殖炉が成功する見込みはないのに、維持するだけで年216億円(1日約5,900万円)もの予算が使われています(その中には地元議員やマスコミ関係者の夜の接待費用まで含まれています)。
民主党政権は2012年9月の新たなエネルギー戦略で、もんじゅは「年限を区切って研究し、終了する」と明記しました。
しかし原発推進派で構成する文科省の「もんじゅ作業部会」は2012年12月11日、研究終了期限には触れずに、研究を続ける方針を決定しています(2012年12月12日 東京新聞2面)。
核燃サイクル施設の下に活断層?
青森県下北郡六ヶ所村には「核燃サイクル」施設が集中しています。
2012年2月6日 東京新聞24面より クリックすると大きな画像が見られます
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この六ヶ所村の地下には、下北半島東側の活断層・大陸棚外縁断層から枝分かれした出戸西方(でとしほ)断層と呼ばれる活断層が通っていることが、すでに2008年に発表されています。
2012年12月20日、原子力規制委員会は六ヶ所村の北にある東北電力・東通原発の地下にも活断層がある可能性が高いと判断しました。
東通原発の活断層も「大陸棚外縁断層」が及ぼす力で形成され、今後も動くおそれがあると考えられています。
こうしたことから、下北半島全体が原子力施設を設置するには危険との見方が専門家の間で広まり、原子力規制委員会は六ヶ所村の核燃施設でも断層調査に乗り出す方針を固めたと報じられています(2012年12月19日 東京新聞1面)。

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六ヶ所村の再処理工場では、いまだにガラス固化体製造技術が確立されていません。
このため、ガラス固化する前の高レベル放射性廃液240m3が貯まっています。
高レベル廃液は、人がそばに近づけば即死する「死の灰」のかたまりです。
放射線で水が分解されて水素が発生しているので、絶えず水素を排出し続ける必要があります。排出が24時間以上とまると、水素爆発します。
崩壊熱を出し続けているので、冷却がとまると約15時間で沸騰し始めます。
この高レベル廃液240m3には、チェルノブイリ原発事故で放出されたセシウム137の約9倍のセシウム137が含まれています。
再処理工場が本格的に操業すると、常時500m3の高レベル放射性廃液が貯蔵されることになっています。
その再処理工場が、活断層の上で操業している可能性が高いのです。
万一、再処理工場で事故が起こったら、その被害は福島原発事故どころではありません。
置き場もない使用済み核燃料を、これ以上増やすな!
問題は活断層だけではありません。
福島原発事故で明らかになったように、使用済み核燃料は冷却し続けなければなりません。
ところが原発サイト内の冷却プールが満杯になりつつあるのです。
最も厳しい状況の東電と日本原電は共同で、青森県むつ市に使用済み核燃料の中間貯蔵施設を建設中で、2013年10月から使用を予定しています。原発敷地内のプールが満杯になれば、ここに運ぶつもりでしょう。
六ヶ所村の再処理工場に使用済み核燃料を受け入れ貯蔵する設備がありますが、2010年度末で91トン・ウラン(=使用済み核燃料、約450本)の受け入れ容量しか残っていないので、現在はもう満杯でしょう。
玄海原発は2.4年の運転で冷却プールが満杯になります。
5年以内に浜岡、玄海3号機、美浜、大飯と、次々に満杯になり、運転不能になります。
「最終処分場」もない
10万年以上にもわたって安全に管理しなければならないガラス固化体などの高レベル放射性廃棄物を、一体どこに処分するつもりなのでしょうか。
2000年に設立されたNUMO(ニューモ:原子力発電環境整備機構)が2011年度までの12年間に計487億円を使って「最終処分場」を探してきました(2012年9月2日 朝日新聞朝刊1面)が、いまだに「候補地」さえ見つかっていません。
学術会議は2012年9月、「万年単位に及ぶ超長期にわたって安定した地層を確認することに対して、現在の科学的知識と技術的能力では限界がある」と指摘し、地下深くに埋める「地層処分」の見直しを提言しています。
いわんや、3.11を経験した現在、地下に「最終処分場」を作ることは不可能でしょう。
安倍内閣は、原発が置かれている状況を直視せよ!
使用済み核燃料の始末を確立するまですべての原発を即時停止せよ!
地震国・日本は活断層だらけです。
すでに敦賀原発と東通原発は廃炉が決定的となっています。
大飯原発も、活断層の可能性が否定できない以上、直ちに運転を停止すべきです。
原子力規制委員会が「安全」と認めて各地の原発を再稼働させたとしても、使用済み核燃料の置き場所がなくなってきます。
そしてなによりも、原発がなくても電気は足りているのです。
安倍内閣はこうした状況を直視し、原発ゼロを求める国民の声に応えるべきです。
原発の最大の問題点は、発電によって放射能を1億倍にまで増大させてしまった使用済み核燃料を、10万年以上にわたって安全に管理する方法も場所も見つかっていないことです。
いかに「安全」な原発が開発されようとも、この問題から逃れることはできません。
すべての原発を直ちに停止すべきです。
(アース)
毎週金曜! いますぐ原発ゼロに! 大飯原発を停止せよ! 首相官邸・国会議事堂周辺抗議
1月11日、18日、25日
午後6時~8時(予定)
首相官邸&国会議事堂周辺
国会議事堂前駅は大混雑が予想されます。
霞ヶ関駅、虎ノ門駅、桜田門駅をご利用ください。
主催:首都圏反原発連合
1月20日(日) 西尾正道氏講演会 -放射線の人体への影響-甲状腺異常など内部被曝を中心に
午後1時半~5時
中央大学駿河台記念館610号室
千代田区神田駿河台3-11-5
JR中央・総武線 御茶ノ水駅下車、徒歩3分
東京メトロ丸ノ内線 御茶ノ水駅下車、徒歩6分
東京メトロ千代田線 新御茶ノ水駅下車(B1出口)、徒歩3分
都営地下鉄新宿線 小川町駅下車(B5出口)、徒歩5分
資料代:1000円
参加人数把握のため、ご参加希望の方はファクス(03-5368-2736)かメール(kokumin-kaigi.syd.odn.ne.jp)でご連絡下さい。
主催:NPO法人 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
1月22日(火) 経団連会館前抗議
午後6時~8時
丸の内線・東西線・千代田線・半蔵門線 大手町駅 c2b出口直結
主催:首都圏反原発連合
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