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アフガニスタン、イラク;対テロ戦争によるアメリカの荒廃

 12月12日、補給支援特別措置法の改正案が衆議院で再可決され、成立した。日本はインド洋のアメリカ軍艦などに給油し、アフガニスタンでの「テロとの戦い」への後方支援を2009年1月以降も継続することを決めたわけだ。

 アフガニスタン、イラクでの「テロとの戦い」では、膨大な人数の現地住民が殺害されているばかりか、アメリカ軍兵士の精神をも蝕んでいる。そこには、「テロとの戦い」がいかに非人間的な行為であるか、如実に示されている。

「戦争による荒廃」

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今年、ニューヨークタイムズ紙は、「戦争による荒廃」と題したキャンペーンを実施し、アフガニスタンやイラクから帰還したのちに殺人事件を起こした121人を実名 と顔写真入りで公開した。

 そのほとんどが、カッとなったり、酒に酔っての衝動的犯行。首などの致命箇所を狙ったり、何十回も刺したりして、確実に死に至 らしめている。

 PTSDと見られる症状が多く見られ、治療を受けていなかった例が目立つ。

セピの場合 

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 2005年の夏、ラスベガス繁華街の裏通りで銃撃事件が起こった。

 深夜、ビールを買いに出たマシュー・セピ(20)が、 帰り道に、金を巻き上げようと近づいてきた二人に突然発砲、死傷させた。

 セピは逮捕時にAK47型自動小銃と180発の銃弾を持ち、自宅には手入れの行き届いた軍服が残されていた。

 逮捕されたときのセピは「待ち伏せ攻撃を受けました。訓練で教わったとおりの手順で交戦しました」と述べた。

 のちにセピは、戦場で心に傷を負ったPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者だったことが明らかになった。

ライトの苦悩

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 海兵隊員アンドリュー・ライトは2004年、イラク中部の町ファルージャで行われた大規模な掃討作戦に参加した。

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 「この町は人殺しやならず者に乗っ取られている。イラクの人たちのため、やつらの脅迫を打ち破るのだ。」 上官はそう語っていた。

 ファルージャには1万を超えるアメリカ兵が投入され、武装勢力を包囲殲滅する作戦が実行された。

 アメリカ軍の激しい攻撃に対し、武装勢力は徹底抗戦を表明、あらゆる戦術を駆使して抵抗を続けた。

 ライトは部下と共にファルージャ市内に突入、1軒ずつ家宅捜索を行った。「退去命令に従わない住民は武装勢力とみなし、発砲して良い」。そう命じられていた。

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 ライトはある建物の屋上から200メートルほど離れたところに男性を発見、直ちに戦闘体制に入った。

 「チームの仲間に、『交戦可能な年齢の男性発見』と大声で叫びました。男性であることは分かりました。狙えるのは頭だけだったので、撃ちました。命中 しました。私は心の中でこう考えました。この男はテロリストかもしれない。男が何をしているのか分からないが、撃つぞ、と。その時には、敵を倒したという 達成感を覚えました。」

 この発砲は命令で許された範囲内のものだった。

 「5、60才の男性でした。お祈りをしていたようです。頭に命中したのはそのせいだと思いました。男性は杖を持っていました。・・・・・・辛いの は、自分が発砲した時に、その男性が本当は何をしていたかを、知る手がかりさえないことです。もしかしたら、男性は足が不自由で町から避難できなかったの かも知れません。しかし私は永遠にそれを知ることができません。」

 男性は残っていた民間人だったのか、それとも武装勢力の一員だったのか?

 ライトには今も分からない。

 「私は酒を大量に飲み始めました。自分の心の痛みと苦悩を切り抜けるために、アルコールが必要だったのです。アルコールを大量に飲まないと、夜、眠れなかったのです。」

 ライトはイラクで、更なる戦場の現実に直面する。

 2005年、イラクのハディーサで起きた虐殺事件。

 仲間を殺された海兵隊員が24人の民間人を殺害した。同じ部隊に所属していたライトは、この現場で遺体処理を担当、心にさらなる傷を負う。

 イラクに駐留したまま症状を悪化させたライトは、睡眠薬で自殺を図った。

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 「気がつくと、ドイツのラムステイン米軍基地の精神病棟にいました。そこで入院中に、慢性のPTSDだと診断されました。しかし、PTSDだとい うことを、私はすぐに受け入れることができませんでした。任務の期間がまだ残っていたので、最後までやり遂げようと考え、こう言いました。私はまったく大 丈夫です、と。海兵隊で叩き込まれるのは、こういうことです。洗脳ではないにしても、部隊に貢献しなければならない。そのために犠牲を払わなければならな いと、教え込まれていたのです。」

ハーシュの場合

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 ジョン・ハーシュ(23)の除隊後の悩みは悪夢。ファルージャの作戦中、敵や民間人の命を奪った場面が繰り返し夢に出てくるという。

 「二度と思い出したくないイラクでの地獄絵を夢に見ます。とても正視できないような場面です。仕方がなかったと正当化しょうとしても心につきまといます。反乱者や悪党をどれだけ殺したにせよ、戦闘と関係のない民間人も殺したことに変わりはない。その思いが夜になると私を苦しめるのです。」

 ハーシュは除隊後、大量のアルコールを飲むようになった。

 

「戦争による見えない傷」

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 アメリカの軍事政策に影響力を持つランド研究所は2008年4月、「戦争による見えない傷」と題する報告書を発表した。

 アフガニスタンやイラクに派遣された164万人について、戦死者・負傷者の数は過去に比べて圧倒的に少ないと評価しつつ、兵士たちの見えない傷が深刻化していると、強く警鐘を鳴らしている。

 PTSDなど、精神的なトラブルを何らかの形で抱えている兵士の数は、帰還兵全体の2割に当たる30万人と推定、早急に62億ドル(約6000億円)以上の対策費が必要と試算している。

 兵士を戦場に送り込んだ国の責任を問う声もあがっている。

 「ブッシュ大統領、息子を人殺しにしてくれて、ありがとう」

 「戦争はイラクの社会に計り知れない損失を与えました。しかし、アメリカの社会が払った代償も大きいのです。政治家たちが考えているよりも、アメ リカは広く、深く、傷ついています。我々はそのことをもっとよく認識すべきなのです」(ニューヨーク市立大学 精神医学 名誉教授 ロバート・リフトン)

「油より生活基盤の整備」

 こうした「対テロ戦争」に油を供給し温暖化を加速し続ける日本。

 12月13日の朝日新聞は以下のように、まったく違った「テロとの闘い」の道を紹介している。

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 「給油よりインフラ」

補給延長 アフガン支援の市民
 補給支援特別措置法改正案が12日、衆院で再可決され、インド洋での海上自衛隊の給油活動がまた1年、延長されることになった。日本に必要な貢献は何か。アフガニスタン支援のNPOや市民団体は、「派遣よりもインフラ整備や和平仲介を」と訴えた。

 7年前から地雷で手足を失った人に義足などを届けてきた奈良市のNPO「アフガニスタン義肢装具支援の会」。滝谷昇理事長(60)は、01年から 続く補給活動について「アメリカとのお付き合いのためにやっているのか、本当に国際貢献のつもりでやっているのか。たぶん前者でしょうね」と受け止めた。

 日本で集めた古い義足を分解し、年2回ほど、作り直した義足を持って現地を訪ねている。補給活動がアフガニスタンの平和にどう役立っているのか、見えてこない。

 現地にとって必要なのは、発電などのインフラ整備だという。「日本の新宿にあたるような場所でも、電気が通じるのは週2日だけ。『無料ガソリンスタンド』をやるくらいなら、その分のお金を太陽光発電にでも風力発電にでも回せないでしょうか」

 8月にスタッフの伊藤和也さん(31)が現地で殺害されたNGO「ペシャワール会」(福岡市)の福元満治・事務局長(60)は「海外のNGOが『数百万人が飢餓に陥る可能性がある』と指摘する冬がやってこようとしている。今必要なのは油ではなく、食料と水だ」と憤る。

 伊藤さんが犠牲となり、日本人の現地スタッフは出国したが、現地代表の中村哲医師(62)は一人で残って、農地を復興するための用水路建設を続けている。再可決について「日本は米国の同盟軍と改めて表明するようなもので、日本人が攻撃対象となる危険性が高まる」と話す。

 国会前では、平和運動に取り取り組む市民団体など約100人が集結。横断幕を掲げ、再可決に抗議した。「許すな!憲法改悪・市民連絡会」事務局次長の高田健さん(63)は「日本は和平に向けた仲介に力を注ぐべきだ」と話していた。 

 改正案は、政局の混乱とあいまって、来年1月の期限切れ直前に滑り込みで決まった。「大丈夫と思っていたが、不安もあった」。防衛省幹部は、改正案の再可決に一安心した様子だった。

(アース)
(続く)

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